プログラム概要
萩の酒は、良質な水と溶岩台地が生んだ土壌、中山間地ならではの気候が稲作適地となって酒米を育み、長州藩都・萩の城下町が酒の一大消費地として上質な酒造りの基盤をなし、人々の知恵と技により受け継がれて広く親しまれています。
2021年3月、萩市と阿武町にある6つの酒蔵が製造する日本酒が、酒類では中国四国地方で初めて、地域の風土と結びついた特産品を保護する国の制度「地理的表示(GI)」に指定されました。6つの酒蔵と集落営農法人で構成される「萩酒米みがき協同組合」は、萩阿武で日本酒がつくられる風景・環境を守っていくため、仲間の輪を広める「Thanks Buddy」プロジェクトを展開しています。
実施内容【第1回:10月10日〜11日】
旧明倫小学校の木造校舎(国登録有形文化財)をリノベーションした観光・文化施設「萩・明倫学舎」の敷地内にあるバスセンターに集合し、そのままオリエンテーションを兼ねた入村式(ウェルカムセレモニー)へ。今回の滞在では、民泊に宿泊いただくことから、受け入れをしてくださるホストファミリーの野原さんとの対面を、槍・剣道場として使用されていた「有備館」で行いました。書道や竹刀を用いたレクリエーションなど、お互いにゆっくりと緊張がほぐれていく、温かな入村式となりました。
その後、民泊施設に移動しながら、世界遺産にも登録されている「大板山たたら製鉄遺跡」に少し寄り道を。ホストファミリーの野原さんは、こちらの施設でボランティアガイドも担っておられることもあり、「明治日本の産業革命遺産」として江戸時代から幕末にかけて稼働していた本施設を詳しくご案内いただきました。
民泊施設に到着すると、季節のフルーツとお茶をいただきながら、和気あいあいと談笑を楽しみながら、実家に帰ってきたかのような心温まるお母さんの手料理をいただきました。プログラム初日の夜は、日付が変わったことにも気づかないほど、楽しいお話に花が咲いた、そんな締めくくりとなりました。
雲ひとつない、すっきりとした秋晴れ。この日は、萩に移住され、さまざまな体験プログラムを造成・提供されている、はぎまえ698合同会社代表の宮崎隆秀さんと一緒に巡る、「FURUSATOサイクリング【日本酒づくりのすべてを巡るサステナブルコース】」からスタート。原料となる酒米を育てる田んぼや豊かな湧き水のほか、全国的にも珍しい取り組みとして注目される「とう精工場(酒米を磨く施設)」など、萩の酒づくりのすべてが循環する地域をE-bikeで巡りました。道中、宮崎さんからのクイズや試食など、五感をフルに使って萩の酒づくり、その現場を感じることができました。猫ちゃんだらけのネコ寺として知られる「雲林寺」さんにも立ち寄り、ネコに特化した色々な商品やグッズ等に参加者も驚いていました。
サイクリング後は、「八千代酒造」さんの酒蔵見学&試飲。明治20年創業、萩市内で最も歴史のある酒蔵で、現在は5代目の蒲久美子さんが萩市唯一の女性杜氏として伝統を守りながら、新たな感性を取り入れた酒づくりを展開されています。昼食は、地元のお母さんたちが安全・安心にこだわって手づくりで料理を提供している農家レストラン「むつみ・キッチンばぁ〜ば」で、地元食材をふんだんに使用した、むつみ豚のロースとんかつ定食をいただきました。お腹も満たされた後は、萩・阿武6蔵の皆さんや「Thanks Buddy」の皆さん、地域の方と一緒に酒米の稲刈りを体験しました。初めての稲刈り、また季節外れの暑さに苦戦しながらの作業となりましたが、それぞれに没頭し、あっという間に終了の時間となりました。【日本酒】というキーワードでこんなにもたくさんの方々とつながることができる、改めてその魅力の大きさに気付かされたプログラムとなり、次回以降、どんな体験が待っているのか、わくわくを胸に帰路につきました。
実施内容【第2回:12月6日〜7日】
第2回のスタートも前回に続いてサイクリング!ですが、今回は田園ではなく城下町を行くツアーでした。ガイドはもちろん宮崎さんです。街中を走りながら、幕末から明治時代にかけて呉服商や酒造業で栄えた商家「旧久保田家住宅」や萩城下に残る武家屋敷での中でも特に古い歴史を有する「口羽家住宅」、日本100名城の一つとして知られる「萩城跡」、白砂青松の美しい海岸「菊ヶ浜」に立ち寄り、ガイドさんや宮崎さんから萩というまちがどのようにして栄えてきたのか、日本酒との関わりについてお話をいただきました。
その後に訪問した、木の温もりを感じられる「萩ゲストハウスruco」では、特産の夏みかんを使用したホットドリンクをいただき、これが冷えた身体に本当に沁み渡りました。お待ちかねの酒蔵見学は、明治34年創業。米の旨みを活かしたふくよかな味わいが特徴の代表銘柄「長陽福娘」で知られる「岩崎酒造」さんへ。出荷前の非常に忙しいタイミングにも関わらず、とても丁寧に蔵の中をご案内いただき、試飲もたっぷり楽しませていただきました。
この日の交流会は、素敵なご夫婦が営まれる「yamamichi食堂」さんへ。台湾料理やスパイスの効いた多国籍なメニューと萩のお酒を心ゆくまで堪能いただき、歴史に裏打ちされた萩市とお酒のつながりについて、改めて深く知ることのできた1日となりました。
少しだけゆっくりと始まった2日目の朝は、江戸時代の港町の風情が今も残る、年に1回開催される「HAGI・浜崎朝市」で朝食をいただきました。東京のフレンチレストランシェフがつくるフィッシュカレーに長州どりの赤ワイン煮込み、フグ入り味噌汁に練りものなど、萩が誇る食の魅力を贅沢に味わいました。
その後は、オリジナルの酒器づくりを「城山窯」さんで体験。完成間近で崩れてしまうなど、思い出深いハプニングもありつつ、ぐい呑みや平杯など、優しく丁寧に教えてくださる先生方の指導のもと、皆さん満足のいく作品ができ、年明けの完成が今から待ち遠しいねと、何度も顔を見合わせていました。
昼食は、山口名物の「瓦そば」。初めての方も、お久しぶりの方も、大きな瓦にのったお蕎麦をみんなでいただく、こうした時間がお互いの距離をもう一つ近づけてくれたように思います。今回は、街中を舞台に萩の日本酒文化について学びながら、よりディープに萩というまちの日常を垣間見ることができたプログラムとなり、それぞれに今後の関わり方について思い描いた時間となりました。
実施内容【第3回:2月28日〜3月1日】
いよいよ最終回。この日は明治時代から続く「中村酒造」さんを訪れ、お酒づくりの工程を非常に細やかに見学させていただきました。地元に密着した酒づくり、長く愛される秘訣を覗かせていただいたように感じます。酒蔵を見学した後は、施設内で酒粕を使用したワークショップで入浴剤とパックづくりを体験しました。酒粕の持つ効能などを学びながら、たまにつまみ食いをしながら、作業に熱中。皆さんの手際もよく、思ったよりも早くつくり終えることができたので、「道の駅萩しーまーと」の親水公園に寄り道をして、満開の河津桜を拝みに。濃いピンク色に染まった花たちが所狭しと咲き誇る姿に、皆さん感動していました。
その後は、「萩観光ホテル」にて日帰り温泉でほっと一息。まだ風も冷たい2月下旬の訪問でしたので、身体の芯から温まっていただきました。最終プログラムの交流会は、「酒を楽しむ会」と題して、市内の蔵元の方や「Thanks Buddy」の方にもご参加いただき、地元食材をふんだんに使用したお料理とともに日本酒をいただきました。前回つくったオリジナル酒器のお披露目も行い、その完成度の高さに思わず頬も緩みます。世界に一つだけのオリジナル酒器でいただく萩の日本酒。これまでのプログラムで出会った方々や風景など、一つひとつ思い出される記憶と経験は何よりの酒の肴となりました。
プログラム最終日、3月1日。心なしか春めいた陽気を感じるこの日は、歴史ある浜崎地区にある「中村船具店 むらやカフェ」で朝食。明治25年創業、老舗船具店を改装したレトロなカフェで、気さくなご主人がアンティークな船具について色々と楽しそうにお話をしてくださる様子は、地域から愛される場所であることに改めて気が付かされます。
その後は、インバウンド向けの酒蔵見学ツアーや地域の資源(未利用、捨てられてしまうもの)を活用した企画を展開している、秋山さんが営む民泊「鶴島邸」を訪れました。広島出身の秋山さん、1年間の世界一周を経て帰国し、北海道から本州をと次に住む場所を探していたとき、ふと訪れた萩市で市内を見渡せる「陶芸の村公園」からの眺めを見た時に、ここに住みたいと移住のスイッチが入ったそう。「日本らしい、自然豊か、小さいスケール」という秋山さんの思い描く場所に萩市が合致したというお話や特産である夏みかんやヒノキを活用した香りを軸とした商品開発など、目をキラキラさせてご自身のことや萩のことを語る秋山さんに、参加者の皆さんからも多くの質問が飛び交っていました。
最後の昼食は、「萩明倫レストラン・カフェ 萩暦」。「萩・明倫学舎」の中にあり、地元萩の旬を活かした創作和食をいただきました。
【萩の日本酒】を軸とした全3回のプログラム。酒米農家さん、蔵元さん、活動に賛同する「Thanks Buddy」の皆さん、萩というまちの魅力を編集し伝える皆さんなど、本当にさまざまな方たちが関わって、萩の日本酒がつくられ、守られていることを実感したプログラムとなりました。
今回参加いただいた皆さんとの新しいつながりから、これからさらにどんな関わりが生まれ、醸されていくのか楽しみで堪らない、萩市むつみ地域でのプログラムでした。
プログラムコーディネーターへインタビュー

株式会社ヨシダキカク
吉田 知弘 さん
岡山県倉敷市出身。2016年に山口県萩市へ移住し、地域おこし協力隊として活動。任期後に株式会社ヨシダキカクを立ち上げ、イベント企画や一棟貸し宿の運営、中山間地域の支援に取り組む。現在は、地域おこし協力隊のサポートや関係人口創出にも関わっている。
Q. 今回プログラムを企画・実施されたきっかけは?
萩に移住してきた当初、地域の人と関わる中で、この場所と距離が少しずつ縮まっていく感覚がありました。観光でも移住でもない、“もう一歩踏み込んだ関わり方”があることで、その地域が特別な場所になっていくと感じています。今回のプログラムでは、日本酒という地域文化を軸に、「関わる」「関係が生まれる」きっかけをつくることを意識しました。同じ時間を共有することで、萩が“また帰ってきたい場所”になることを目指しました。
Q. 取り組んでみてよかったことは?
3回のプログラムを通じて、関係が少しずつ深まっていくプロセスをつくれたことが大きかったと感じています。
①繰り返し訪れることで、参加者と地域の人との間に自然な関係性が生まれたこと
②日本酒という共有のテーマを通じて、地域のプレイヤーの想いや背景が伝わったこと
また、地域側にとっても、外から来る人との関わりを通じて、自分たちの暮らしや文化の価値を見直す機会になりました。
Q. 今後の目標は?
関係人口は「つくるもの」というより、「関係が続く仕組みの中で自然と生まれていくもの」だと感じています。今後は、関わりが一過性で終わらないように、地域の中に“受け皿”や“関わりしろ”を整えていきたいと考えています。それぞれの距離感で関われる状態をつくりながら、地域の活動や風景が無理なく続いていく形を目指していきます。
参加者からのコメント
・複数回の間に人間関係も構築され、リラックスした中で踏み込んだ理解ができた
・季節を変えて自然、行事、飲食を体験したい
・さまざまなコンテンツを企画いただいて満足
・次年度のプログラムも参加したい


























