日本最大級のカルスト台地・秋吉台のある美祢市。その北部にある秋芳町別府(べっぷ)地区は、日本名水百選に選ばれた別府弁天池や市営の養鱒場がある地元で人気の観光エリアです。しかし、地域に人の集まるお店が少なく、住民の高齢化や過疎化の進行に伴い、空き家が多いことが地域の課題です。
プロジェクトには東京や鹿児島からも参加があり、古民家を所有し活用を考えている方や山口県に興味を持たれている方など様々。DIY のサポート部隊として、山口大学の学生で運営する「山大リノベ部」の皆さんも参加しました。
その水を活かしてニジマスを育てる養鱒場と釣堀があるのも特徴です。釣堀で二ジマス釣りを体験しました。
ニジマス釣りを楽しんだ後は、そのまま歩いて別府地区の空気を感じながら移動。5分ほど歩けば、DIY に挑戦する空き家に到着です。築100 年を超えるというこの空き家は納屋や蔵を備えた古民家で、家の中を見て回り、活用のアイデアをふくらませました。そして、夕食は空き家の庭で雰囲気を味わいながらBBQ。炭から火をおこし、釣堀で自分たちが釣ったニジマスをはじめ、地元の食材を焼いて味わう時間は格別でした。きれいな湧き水で育ったニジマスは臭みもなく、香ばしく焼けた身を堪能しました。
翌日の朝、足を運んだのは特産品の秋芳梨を栽培する豊田農園。案内人の豊田さんは、秋芳梨生産組合の副会長であり、U ターンして家業を継いだ定住促進協議会のメンバーでもあります。豊田さんからは、約100 年の歴史をもつ秋芳梨について、水はけが良く、養分の豊富なこの土地だからこそ美味しく育つ秘密や、栽培へのこだわりなどをお話しいただきました。
途中のランチタイムには、別府弁天池のニジマスを使った「ニジマスバーガー」が登場。地元の堅田婦人部の皆さんが開発したご当地グルメで、池のそばの特産品直売所「Benten Blue」で調理・販売される赤・白・黒の3色のバンズにニジマスのフライを挟んだ個性的なフィッシュバーガーは別府弁天池の新名物です。
お腹を満たした後は、各グループが意見をまとめて発表。別府地区の印象として挙がったのは、飲食店や遊ぶ場所などの「コンテンツが少ない」、観光の合間に一息つくことができるカフェなど「休む場所」が欲しいといったものでした。
そして、空き家の活用方法についても様々な意見があがりました。空き家は屋内にいろり、屋外にかまどがあり、庭には納屋や蔵があるという元々の造りを活かして、“ 蔵をカフェ” に、“ 納屋をサウナ” に、“ 庭にピザ窯” を作っては、というアイデアが挙がりました。
また、空き家の周りには畑と山が広がっているので“ 空き家を中心にした総合体験施設” を作っては、という意見など、活発に行われたディスカッションは時間が足りないほどでした。第1回目のプロジェクトの締めくくりは、実りの多い時間になりました。
2 ヶ月が経ち、11 月5日・6日にプロジェクトの第2回目を開催。前回のメンバーが集まり、ディスカッションで挙がった意見を参考に、空き家のDIY を行いました。今回の作業は“ ウッドデッキ” と“ 木のスツール” 作りで、工具の使い方などレクチャーを受けて挑戦しました。
サポート役として山大リノベ部の学生も参加し、2 つのグループに分かれて作業しました。ウッドデッキは、事前に大工さんに土台を整えてもらい、参加者が手がけるのは木材を1枚ずつ塗装して、土台に取り付けていく作業。4m× 4mの大きなウッドデッキなので扱うのもひと苦労ですが、熱心に質問され、楽しみながら取り組みました。
また、スツールの素材になったのは、空き家の庭にあった高さ約30m の大木。事前に程よい長さに切られた丸太の皮をはぎ、サンダーで磨きました。想像以上に皮が剥ぎにくかったり、中から虫が出てきたりと、自然の木ならではのハプニングもありましたが、作業に集中。夕食は空き家の庭で焼き鳥などを食べながら、心地よい疲れとともに1日を終えました。
翌日も朝からひたすらDIY の作業を進め、午後にはウッドデッキと15 個のスツールが完成!
初めてこういった作業をする人もおり、難しい工程もありましたが、大掛かりなDIY を達成できた喜びや、話し合った意見をもとに形にする作業を自分たちの力で行ったことに対して、やりがいを感じた方が多かったようです。
プロジェクトを通じて得たものは大きかったと話すのは、主催の井上さん。「プロジェクトをきっかけに、参加者の方から『近くに行くのでDIY した家の様子が見たい』『家族にも見せたい』といった問い合わせがあり、空き家に対しての愛着や、別府地区への“ 里心” をもってもらえたように思います」と、手ごたえを感じている様子です。
また、参加者の「プロジェクトを通じて様々な方と出会えたので、今後も交流を続けたい」との声を受け、新たなイベントを計画されています。今回の参加者に声をかけ、4月頃に空き家で「瓦そば作り体験」を行う予定とのことです。
今回挙がったアイデアをできるだけ活かすため、空き家の用途を限定せず、様々な形で利用できる場所にしたいとの思いも抱かれています。まだ発想の段階とのことですが、空き家での“ 室内キャンプ” を構想中で、ウッドデッキにテントを張れるようにしたり、空き家の中でも快適にキャンプができるよう、間仕切りを取り払って床をフローリングに張り替えるなどの考えがあるとのことです。手付かずだった空き家が、今回のプロジェクトをきっかけに、別府地区に人が集まる中心的施設としての第一歩を踏み出しました。