〔レポート〕すだいだいプロジェクト2021(周南市大津島地区)

<活動内容報告:11月26〜28日>

■11月26日

 この日は、大津島と古くから交流がある周南市須金地区で「fu do ku kan Bamboo」を経営されている須田さんのお話を伺いました。

 須田さんは、東京からIターンし起業。有機栽培で育てた唐辛子を使った、国産で唯一の「グリーンカレーペースト」を開発・販売されています。合わせて、ゲストハウスや飲食店の経営もされており、周南市内における六次産業化のパイオニア的な存在です。

 今回は、須田さんの取り組みについてお話を伺い、唐辛子を使った柚子胡椒作り体験を行いました。唐辛子を半分に切り、種を取り、塩と混ぜ、ミキサーにかけていきます。ゆずの皮は、薄切りにします。この薄切りにする作業がとても大変で、白い部分が入るとえぐみが出てしまいます。黄色い皮部分だけにするのは難しく、須田さんの奥様には、何度も「やり直し!」とご指導いただきました。材料を全て混ぜ合わせた後、瓶に詰めて、1週間熟成させたら完成です。

 柚子胡椒はスーパーで買うもので、私達に上手く作れると思っていませんでした。添加物などを入れず、唐辛子、塩、柚子の皮だけで作った手作りの柚胡椒は、香りがとてもよく、市販の物とは比べものになりませんでした。

■11月27日

 朝から大津島の馬島地区、本浦地区に別れて、すだいだいの収穫体験を行いました。すだいだいは、ゆずとカボスの原種と言われており、瀬戸内海周辺の地域では、なじみのある「柑橘酢」がとれる果実です。
 島では、お刺身にかけたり、ポン酢、酢の物、なまこ酢などのお料理に使うだけでなく、お正月飾りにも使われているとても縁起の良い食材と伺いました。

 すだいだいの収穫作業の工程は、「(1)木に登る→(2)実を切る→(3)二度切り→(4)収穫カゴに入れる→(5)集荷→(6)運搬→(7)洗浄→(8)集計」です。1つのすだいだいを加工する前段階で、こんなに大変な8工程がかかっているということは、一番の驚きで、初めて体験する作業は、慣れるまで時間がかかりましたが、ここまでの作業を一日かけて実施しました。

 東京では、スーパーで簡単に柑橘類を手にすることはできますが、私達がスーパーの籠にいれる前までに、こんなに大変な作業があると体験したことで、農家の皆さんの大変さを実感できました。この日は、372キロのすだいだいを収穫し、620キロの島のすだいだいを集荷し、合計992キロのすだいだいを洗浄しました。

■11月28日

 午前中は、地域奉仕作業とすだいだい畑の圃場整備を行いました。

▶地域奉仕作業

 大津島の天浦地区と柳浦地区にある道路の側溝清掃を実施しました。側溝は、大津島において重要な防災機能です。側溝の中を雨水が通り、海に抜けることで、道路の冠水、集落への流れ込み、がけ崩れなどを予防しています。しかし、近年は猪の増加による被害が問題となっています。猪が山を掘り返し、水が溜まることが原因でがけ崩れや落石、泥の流出が多くなり、側溝を埋めてしまいます。
 側溝が埋まることで、水の流れが変わり、道路が冠水、住宅地への水の流入が発生し、災害や命の危険につながってしまいます。
 側溝清掃作業は、とても重労働でした。高齢化率80%の大津島では、作業ができる若い人も少なく、動ける人も限られています。大変な作業でしたが、島のために汗を流すことはとても充実感がありました。

▶すだいだい圃場整備

 本浦地区のすだいだい畑の周辺の除草作業を行いました。

 すだいだいの木の周りには、除草シートが張ってありますが、幹の周辺には張っていないため、草が生えてしまいます。「木が十分に育成するためには、雑草をしっかり根から除去しなければ、育成をさまたげたり、虫が発生し、木が病気になってしまう」と、島の方が教えてくださいました。
 午後は、動画撮影を行いました。4班に分かれ、大津島の美しい景色を取り入れたオリジナル動画撮影を行いました。各班、趣向を凝らして、オリジナリティある動画が完成し、夜の鑑賞会は、とても盛り上がりました。

■感想

▶参加者:関 海人(学生)

 今回のプロジェクトで、初めて大津島に行きました。そこで私は、現地に行き、自身の肌感覚で島に触れ合うことが大切だと感じました。特に驚いたのは「すだいだい」の収穫作業です。

 畑に向かう道は、整備されておらず、竹や木が無造作に立っており、足場の悪い山道でした。運動不足であったことも原因の1つですが、行きの登りだけでとても疲れてしまいました。その中で、島のおじいちゃんは、私達よりも元気で、体力ある様子に驚きました。帰りは、収穫物を持って降りたので、何度も滑りそうになり怖かったです。また、こんなに足場が悪く急な坂から、高齢者の方が転んだら本当に危ないと感じました。

 今後は、少しでも収獲がしやすいように足場を作る事や竹・木を伐採し、収穫ルートを作る事が大切だと思いました。その為には、若い人の力は必須だと改めて感じました。 今回のプロジェクトで、大津島の様々な現状を知る事が出来ましたが、1番の良かったことは島の人の温かさに触れることが出来たことです。また、機会があれば行きたいです。

▶櫻井 花音(学生)

 大津島に実際に行かせていただいて、東京では感じることのできない人の温かさを強く感じました。印象的だったのが本浦で草刈りの作業をしていたときに1人の島民の方からみかんを頂いたことです。「これ全部刈るのは大変だね」と声を掛けてくださり、袋いっぱいのみかんを持ってきてくださいました。東京では近所の人とすら会話をしないのが現状だが、大津島では全く知らない学生にも温かい声を掛けていただいてとても嬉しかったです。

 また、1つの作業でもたくさんの島の方が見にきてくださり、すだいだいのとり方や、皮むき、昼食や夕食作りにおいてもたくさんの方々の協力があり、私たちは本当に楽しい4日間を過ごすことができました。たくさんの人の温かさを感じることができた大津島で、次に行く機会があれば、私たちが今回以上に島のためになることをしていきたいと思います。

(文責:大津島 大友翔太)

<活動内容報告:3月11〜13日>

■3月11日

 今回の参加者は、1週間前から体温の計測と抗原検査を行い、10日以上前から人の密集する場所や感染リスクの高い場面を避けるなど、事前準備と感染症対策を入念に行いました。

 12時に参加者と合流して、プロジェクトの準備(買い出しなど)を済ませてから、大津島の松本千恵子さんに「昔ばなし」を聞かせていただきました。夜は、大友さんのご指導によって、夜釣り体験を行いました。
 「昔ばなし」では、松本さんのご両親の戦争体験という、大変貴重なお話を聞きました。戦時下を生きた大津島の女性達の話、松本さんのお父さんが経験されたシベリア抑留の話は、いずれも辛く重い経験であり、参加者一同、真剣に聞き入りました。ここでは、「zoom」を用いて、徳山大学の学生4人にもオンラインで配信しました。

■3月12日

 午前は、島民や島の出身者の方々にご指導いただきながら、本浦地区のすだいだいの圃場整備を行いました。 圃場整備の作業工程は、「(1)草刈り→(2)防虫作業→(3)肥料まき」です。この圃場に植えられたすだいだいの苗木は、2017年以降に拓殖大学の学生達が育てたものであり、それを島民が圃場に植え替え、その後もたびたび学生が管理に参加してきました。
 こうした作業を通して、参加者は、農業の大変さや、島の人々の生き方を学びました。また、圃場の場所が本浦地区の集落内にある点も重要であり、高齢化が進んだことで、空き家が増加する集落をいかに守るのかについて、参加者が深く考える機会を得ていました。

 午後は、島民の石田さん、島民でデザイナーの松田さんを講師として、PPバンドによるカゴ作りを行いました。

 PPバンドのカゴづくりは、かつて大津島の婦人会に伝わり、島の女性達の中で続けられた営みです。石田さんは、とくに熱心にカゴづくりを行ってこられた方で、これまで国土交通省と日本離島センターが主催する「アイランダー」などにも出品してきました。
 今回は、島の隠れたモノづくりを発掘し、今後の商品開発の可能性を探ることを目的として、参加者とカゴづくり体験に取組むと同時に、zoomを通して、山口市・東京都の人たちと一緒に作業する場をつくり出す試みにも挑戦しました。 また、12日の作業には、徳山大学の学生にも参加していただきました。

■3月13日

 午前は、11月に収穫したすだいだいの果汁を絞り、午後には絞った果汁をアロマオイルに加工しました。この日は、徳山大学の寺田先生にもご参加いただきました。

 作業工程は、「(1)すだいだいの選別→(2)洗浄・皮むき・果汁絞り→(3)アロマオイル作成」です。収穫後しばらく経ったすだいだいではありましたが、加工品として利用する果汁は十分とれました。少量ではありますが、オイルとフローラルウォーターの抽出に成功しました。果汁は36Kg絞っています。
 今回の活動では、すだいだいの栽培から加工まで、一連の工程を、参加者と大津島の人たちが一緒に行い、関係を深めながら、協力してすだいだいの商品化の可能性を探ることができました。 この3日の活動を通して、広域(首都圏)・狭域(山口県内)の「関係人口の育成」が進み、大津島に新たなパートナーシップが芽吹いていることを実感しています。

■感想

▶参加者:土屋 友陽(拓殖大学卒業生、埼玉県在住)

 プロジェクト全体としては、少人数もあり作業がスムーズに進んだと思います。ただ、個人的には結構忙しく、ゆっくりする時間がもう少しあったほうがいいのかなって感じました。僕自身は前乗りでゆっくり休めたので、そこまで感じませんでしたが、2泊で来ている人達には結構ハードなものだと思います。短い期間であるから時間がなく、予定が詰まるのは仕方ない事なので、なんとも言えませんが。 とはいえ、プロジェクト自体はやる事が事前に決められていて、スムーズに行えて、充実したものになったと思います。

▶参加者:倉上 慎平・康子(社会人、東京都在住)

 非常に楽しく充実した3日でした。一方、全体的にバタバタした印象がありました。計画通りにいかないことが普通なので、例えば想定時間の1.5 倍の時間を確保してスケジュールをたてるのもありだと思います。

▶参加者:吉岡 興紀(拓殖大学学生、千葉県在住)

 今回のプロジェクトは参加人数が少なく、精神的にも負担が少なくてとても楽しかったです。 かご作りは、カメラや音声で少しドタバタしましたが、上手くいったと言えると思います。東京側で受講していた方々のかご作りの手際が素晴らしかったです。13日に出発する際に余裕がなかったのはきつかったです。後片付けを出来なかったのが心残りです。

▶参加者:柏野 太志(拓殖大学卒業生、埼玉県在住)

 JAの直売所に行ったり、戦時中の島の話を聴けたのはとても良かったです。貴重な経験になりました。籠作りは想像してた以上に難しかったですね。 最後に、現役の学生達に対しては、周りがやる(行く)からやる、付和雷同となるのではなく、今回や島のことに限らず、もっと主体性・自主性を持ってほしいなと思いました。

▶桜井 美季さん(大津島出身者)

 私はもともと島民で、こんな田舎に時間を作って若い子達が来て頂ける事に、嬉しく思います。色々な作業の中でも、楽しい時間を過ごして頂きたいと思ってました。が、かご作り…。この年になると、段々受け身の生活、ワンパターンな生活ですが、我先にと久々に夢中になってました(笑)。私はスケジュールに乗っかるだけで、立てる側は大変だと思います。
 孫も一緒に参加させて頂けた事に、感謝です!一番楽しませてもらったのは孫でした。 ありがとうございました。

▶本多 俊貴(拓殖大学非常勤講師、東京都)

 今年の拓大生の活動は、大友さんとの「zoomミーティング」(毎週土曜日:約1時間半)を続けながら、学生 自身が設定したテーマでもある「(東京と大津島における)コロナ禍でも可能なパートナーシップ」を目指してきました。具体的には、大津島におけるすだいだいの栽培および加工と、東京都墨田区における青空市出店を行いました。
 コロナ禍に負けず、大津島との関係を維持したいと思う学生の熱意と、その学生を根気よく導いてくださった大友さんのご尽力によって、1年間の活動を維持することができました。今年は、土屋さんや柏野さんといった、OB達も積極的に大津島へ足を運んでおり、「関係人口」が持続的に培われる実感を与えられてもいます。もちろん、我々を暖かく迎えてくださった大津島の人たちには、感謝が尽きません。この活動に関わられたすべての人たちに感謝申し上げます。

(文責:拓殖大学 本多俊貴)

<総括>

 現在、地域づくり界隈で、関係人口という言葉をよく耳にします。その言葉の解釈は、かなり多様性があり、取り組みも様々です。

 大津島は、人口208人、高齢化率80.2%。超高齢化が進んだ島にとって関係人口はとても貴重な戦力です。

 大津島では、2017年から「島に若手が少なければ、外から呼んでくればいい」という発想の元、拓殖大学との域学連携事業をスタートさせました。

 彼らは、右から左に流れてしまうその場限りの関係人口とは違います。世代が変わっても、何度も島を訪れてくれています。彼らは、島民と一緒に汗を流し、地域支援を行い、島民と食事を共にします。これは、地域の若者の役割と変わりはありません。そして、私は学生と島民が「あんたまた来たんかね」と、笑い合えるような関係構築を目指してきました。

 私は、この「関係人口の育成」が、大津島が今後の島の存続と地域づくりの最重要プロジェクトだと考えています。

 今回島に来た参加者のほとんどが、“はじめての大津島”でした。

 本来、今回のメンバーは、2年前に大津島に来る予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で、来島することができない時期が続きました。

 この2年間、学生達は、「青空アンテナショップかんじいろ」を立ち上げるなど、離れていても、東京で実践できる大津島への支援に尽力してきました。その彼らが、やっと島に来ることができたのです。 空想の島だった大津島が、現実の島に変わったのです。現場で躍動する彼らの姿を見て、とても感動的でした。

 活動内容に関しては、彼らのレポートや感想を読んでいただければ分かるように、多岐にわたるプログラムを準備しました。第一次、第二次生産に関わる事、特産品の開発、地域への実践的な支援などを織り込み、参加者が「島で生きるということ」を体感できるよう努めました。

 私は、大津島の好きなところは?と聞かれた時に、食文化、海、山、文化、歴史、など色々ありますが、私が一番好きなのは、島民との時間です。一緒に、お茶をし、食卓を囲み、くだらない冗談を言いながら、島の話を聞く。私はこの時間が一番好きです。しかし、これは、ただの来島者では、体験することができません。島のコミュ二ケーションの輪に入る必要があるのです。この要素があることで、島での滞在がより充実すると考えています。

 今回の島での体験は、彼らにとって非日常であり、初体験の連続だったと思います。その初体験の連鎖が、彼らの心に残ることで、「また山口に行きたい」、「大津島に行きたい」、「島のために頑張りたい」、最終的には、「住んでみたい」。その連鎖が起こってくれれば嬉しいです。 最後に、本プロジェクトを実施するにあたり、支援してくださった、山口つながる案内所、山口県、周南市の皆様には、心より感謝申し上げます。

(文責:大津島 大友翔太)