鎌倉で不可能といわれた洋館再生を成し遂げ、萩の空き家も次々と再生(萩市)

 神奈川県鎌倉市でレストランやウェディングなどの事業を手がける株式会社b.note(ビー・ノート)代表の新井達夫さん。2018年に萩市で、はぎ地域資産株式会社を立ち上げ、地域の若者を雇用し、しゃぶしゃぶ店「いり吉」のオープンを皮切りに続々と空き家を活用する事業を進めています。これまでの軌跡や今後の展開について伺いました。

起業と築100年の洋館再生を成し遂げるまで

 新井さんは、父親の仕事の関係で5歳まで山口県で育ちます。その後、九州へ。小学6年生から神奈川県、そして東京で暮らしました。大学卒業後、偶然にも、のちに縁ができる萩市出身の藤田伝三郎氏が創立し藤田財閥の流れをくむ藤田観光に就職。18年間の会社勤務を経て独立しました。独立のきっかけは、鎌倉の別荘文化を象徴し、3大洋館の一つに数えられる「古我邸(こがてい)」との出会い。「古我邸に、新たな明かりを灯したい」と起業することに。しかし、その道のりは平坦なものではありませんでした。

 2009年に起業し、鎌倉市でウエディングプロデュース事業を受託しながら、古我邸活用に向けて奔走する日々が始まりました。古我邸は飲食店営業ができない住宅街にあり、当時、年配の婦人が暮らしていて、「営業は不可能」と言われてきました。

 その状況を「ライバルがいない」ととらえた新井さん。市役所と調整し、婦人と交渉。古我邸を借りられることが決まっても、莫大な改修資金を調達するまでに一苦労。2015年に構想から7年の歳月を経て、ついにフレンチレストランとしてオープンしたのです。

古我邸 

古我邸(内部)

「癒やし」を求めて萩を訪れる

 新井さんと萩市に縁ができたきっかけは、2015年のこと。古我邸オープンまでの奔走で疲れ切っており、藤田観光の知人の紹介で、「癒やし」を求めて萩を訪れました。そこで、萩市役所の職員と出会い、萩市の伝統的建造物群保存地区のいくつかを案内してもらったところ、漁港のあるまち・浜崎をとても気に入ったそうです。

萩で背中を押してくれる人との出会い

 実際に萩で空き家を購入しようとすると、荷物や仏壇があるので売れないということが続き、なかなか進みません。2年の月日が流れ、「こうなったら、まちじゅうの人たちに浜崎再生プランの説明をしよう」と奮起。

 「しそわかめ」で有名な井上商店の会長に話すと、「それはすごくええプランだから、絶対やってくださいよ。応援しますから」と、ものすごく背中を推してくれました。心のこもった励ましに感動し、「必ず、成し遂げよう」と決意したそうです。

 その矢先、萩市から所有者のわからない空き家「藤井家」の活用について打診がきたのです。自分で弁護士に依頼し、持ち主を探し出して交渉しました。結果、売却が成立。

はぎ地域資産株式会社を設立。萩での動きが続々と

 一軒購入したら、次々と話が来るようになり、萩の空き家活用事業が続々と動き始めています。

以下、時系列で見ていきます。

2018年7月「はぎ地域資産株式会社」設立。地域の若者3人が入社
スタートアップ支援のシェアオフィス「ukishima」オープン
2018年10月和食料理店の元店舗を改装し、しゃぶしゃぶ店「いり吉」オープン
2019年1月ukishimaで地域の人たちがやりたいことを発表するイベント「u-pitch(ユーピッチ)」 スタート
(毎月開催。現在は新型コロナ感染拡大防止のため休止中)
2020年1月「旧三浦金物店」改修工事スタート。DIY、図書寄贈イベント等多数開催
2020年8月飲食、図書スペース等の交流拠点「旧三浦金物店」オープン
2020年10月藤井家前の蔵を一棟貸しの宿「蔵」としてオープン予定

その他、最初に購入した「藤井家」を飲食店にする計画が動き始めています。

シェアオフィス ukishima

u-pitch

コロナ禍でも会社の雰囲気は明るい

 コロナの緊急事態宣言を受けて、鎌倉の古我邸も萩のいり吉も4月半ばから5月いっぱい休みにしていましたが、萩のみんなは旧三浦金物店のDIYを進めていました。鎌倉では、敷地内にある畑を一生懸命耕していて、「会社の雰囲気は、明るかった」といいます。新井さんは、「コロナによって都市の限界が見えてきたところもあり、地方移住の流れは大きくなる」と考えているそう。

 しゃぶしゃぶ店 いり吉 

 旧三浦金物店のDIY

「やりたいことを、やったらいい」

 はぎ地域資産株式会社では、3人の社員が、ほぼ自由に活動していて、社員は3年以内に自分で事業を起こすことが義務付けられています。

 b.noteのホームページには、新井さんの発言として、「会社は社員みんなのビジョンの寄せ集めでできている。会社のビジョンを掲げるより、個人個人のビジョンをはっきりすることが大切だ」と掲載されています。

 移住したい人にも、新井さんが伝えたいことは「やりたいことを、やったらいいし、住みたいところに住んだらいい」ということ。

 今後の予定として、はぎ地域資産株式会社は、「みんながやりたいことをやるプラットフォームになろう」と考えているそうです。自分たちが浜崎で動き始めたことが、まわりにも波及し、結果として、まちが元気になってくれたら嬉しいけれど、あくまで目的は「一人一人がやりたいことをやる」ということ。

 新井さんご自身は、萩をきっかけに、人に出会うことの素晴らしさを体感したので、これから(コロナ収束後)、いろいろな場所に行って、いろいろな人に会うことをたくさんやっていきたいと思っているそうです。

旧三浦金物店

旧三浦金物店の店内