山口県のあちこちに転がる「ワクワク感や楽しさ」という、小さな火種を燃え上がらせたい

IT 技術を使って人々をつなぐ、スペシャリスト

2020年に山口大学の学生達が中心となって制作し、後に県の公認も得た『山口県新型コロナウイルス感染症対策サイト』

このサイトの立ち上げをはじめ、ITを使い、山口県のクリエイターや学生と協力しながら様々な取組みを行っているのが水田千惠さんです。水田さんは山口県宇部市出身、東京の大手IT企業・ヤフー株式会社で現在、『Developer Relations(デベロッパーリレーションズ)』の仕事をしています。

『Developer Relations』とは、社内外のエンジニアやデザイナーと交流しながら自社の技術ブランディングを行う新しい職種。特にヤフー株式会社では、クリエイター同士の交流や活躍支援にも力を入れていることが知られています。また、水田さんはヤフーが配信する、未来を創る人を応援するWebメディア『Future Questions』の編集長も務めています。

個人の力とITを組み合わせれば、大きな力になる

東京に拠点を置きながら、地元・山口県での活動にも積極的に参加する。水田さんの現在のスタイルを形作る一因になったのは2011年に起きた東日本大震災でした。

当時、地震発生から数時間後に『sinsai.info』というサイトが立ち上げられました。これは各地から寄せられる被害情報や安否情報などを地図上で確認できるサイトで、有志ボランティアが立ち上げたものでした。

「IT技術を使えば、市民の力を持ち寄って形にできるのだということに、とても衝撃を受けました。当時、私はプログラミングスキルがなかったので、自分にできることがないのではないかと感じていました。そのとき、プログラミング以外でも英語翻訳などの役割があると知り、積極的に参加するようになりました。『個人の力も組合せ次第で何でもできる』と考え方が変わるきっかけにもなりました」と水田さん。

「グローバル」も「ローカル」も同じように大事にしたい

その後、水田さんは『ハッカソン』と呼ばれる、クリエイターが集まり短期間でソフトウェアを開発するプロジェクトに参加するようになります。NASAの呼びかけで行われる世界同時開催のハッカソンでは、2015年に山口市、2019年と2020年には宇部市での開催に関わりました。

私には、学生時代から『世界の変化を自分の目で見たい』という思いがありました。インターネットに惹かれたのもそれがきっかけでした。今の目標は、社会の中で『100年後にも残るサービス』を作ること、また、日本各地に新しいアイデアの素となる『熱源』があるので、それをキャッチしながら新しいサービスを生み出すこと。私にとってはグローバルもローカルも同じように重要です」と話します。

2017年には会社のテレワーク推進の取組みを利用して、毎月国内の様々な地域を訪問。実際に現地に赴いてはじめて知ることやその『熱源』を見つけることも多かったとい言います。「山口県で出会う方々は好奇心旺盛な人が多いですね。新しい提案を面白がってくれる方が多いので、離れていても新しい提案を持って行ってみたくなります」と水田さんは話します。

コロナをきっかけに生まれた、学生たちのチャレンジ

そして2020年3月、水田さんは『山口県新型コロナウイルス感染症対策サイト』の立ち上げに関わることになります。『新型コロナウイルス感染症対策サイト』は、様々な立場のプログラマーたちが協力して開発したサイトで、最初に『東京都版』のサイトが公開された後、そのプログラムを使ってそれぞれの地域版『新型コロナウイルス感染症対策サイト』が各地に作られていきました。

この動きの中心となったコミュニティのメッセージングアプリ内で、山口大学の学生・西田さんが発信した「山口県版を作りたい」という投稿を見つけた水田さんは、西田さんとコンタクトを取り、その制作をサポート。制作をはじめて約5日後にサイトは完成します。立ち上げ翌月には、データ更新をスムーズに行うため、西田さんが県庁担当者に要望を提出。

すぐに受け入れてもらえ、翌週にはオープンデータという形での提供がスタートしました。さらにその2日後にはサイト自体が山口県公認になりました。「これまでの前例からするととても早く、県庁の方も柔軟に対応してくださったのだと感じました。山口県、良いところだなぁと思いましたし、これから新しいことをはじめるための期待と自信にもつながりました」と水田さんは微笑みます。この取組みは今年4月のコミュニティ「Code for Yamaguchi」の立ち上げへとつながっていきました。

山口県に、もっと『面白いこと』を広めていきたい

「これから活動を続けて行く中で、山口県で2つやってみたいことがあります」と水田さん。

1つ目は『テクノロジーとの接点をもっと作ること』。ドローンやVRなど、次々と生み出されている新しい技術を体験してもらう機会をもっと増やすことで、新しいアイデアやサービスが生まれる土壌を作っていきたいと話します。

2つ目は『地域の横のつながりを作ること』。これは日本各地を訪問した時に感じたことで、日本各地に面白いアイデアがあるものの、それはその地域から外に発信されていないことが多く、「それをつなげていくことで、更に新しい化学反応が起きるように導いていきたいです」と水田さんは話します。

「様々な取組みの中で私が担当する立場は『アイデアを面白がる』役だと思っています」と水田さん。コードを組むなど、アイデアを形にしていくために必要不可欠な部分ももちろん重要。それと同時に『面白がってくれる仲間がいる』ということが、クリエイターたちの背中を押す大事な役割だと水田さんは感じています。

「ワクワクや楽しさの小さな火種に風を送って大きく燃え上がらせる、そんな役割をこれからも続けていきたいと思っています」と語る水田さん。常に「面白いこと」を探す水田さんの瞳は、キラキラと輝いていました。